CGアニメ「やんやんマチコ」戦記
きっかけ
CGアニメ制作会社カナバングラフィックスの社長の富岡聡さんとは、
旧知の間柄で、富岡さんの革新的な短編CGアニメが話題になっていた時期に
スマスマの特番用に、ショートフィルムを作ってもらいました。富岡さんは
2006年にウサビッチで、商業的にブレイクしました。その頃ウサビッチ
の次の新作キャラクターの相談を受けました。いくつかアドバイスをしただ
けで忘れていたのですが、連絡があって、新作CGアニメ「やんやんマチコ」
のプロデューサーをお願いされました。前の会社の中で、自分の立場が微妙
になっている時期だったので、興味半分でお手伝いすることにしました。
すでに、膨大な予算と時間をかけて、3本目までがほぼ完成していました。
しかし、ディレクターでもある富岡さんと原作者の西村さんの間がうまくい
かなくて進行が滞っていました。
脚本
そこで、双方の言い分を聞きながら、新作の脚本作業から入りました。
西村さんはこの時点でプロジェクトから降りることになって、脚本家探しか
ら始めました。短編でギャグが多いアニメの脚本は、適任者がいなくて、CM
プランナーとドラマの脚本家など違う分野の複数の脚本家にお願いして、様
子を見ながら詰めていくことにしました。最終的には、CMプランナーの人が
適任だと思いました。しかし、プロではないのでネタ切れになると思い、
アニメの脚本家にもお願いしました。マチコのキャラクターを伝えるのと
短編なのでギャグ等の入れ方に苦労しました。他でも書きましたが、脚本作
りはプロデューサーの醍醐味です。脚本作りに関わっていると、予算に合わ
せて内容を調整することができます。脚本ができてからのCGアニメの制作は
時々チェックする程度で、富岡さんとカナバンのスタッフにほぼお任せしま
した。
プロモーション
問題は、完成してからのプロモーションです。マチコは自主制作で、制作
費の全てをカナバンが出しています。公開するのは、YouTubeだけで、DVD
やグッズの収益で制作費を回収する予定でした。すでに、膨大な制作費がかか
っているので、回収するのは難しいと予想しながらもロードマップ(計画表)
を作りました。そもそも、富岡さんが新作アニメを作るきっかけは、ウサビ
ッチのDVDやグッズが物凄く売れているにもかかわらず、カナバンに入ってく
るお金では高い制作費が回収できないと思っていたからです。(後でそれが
間違いだと気づきました。)マチコのDVD化には、複数の会社が手を挙げまし
た。ウサビッチの成功を見ているからです。グッズは、私が入る前に既に進
行していましたが、エージェンシーを入れずにやっていて、原作者のサンプ
ルチェックが厳しく、進行が遅く、いくつかのキャラクターグッズ会社がお
りていました。DVDはウサビッチと同じ会社。グッズは新たにエージェンシー
にお願いして、プロモーションはカナバン社内でSNSを中心にして、イベント
等を行いました。バスツアーや都電ツアーを行いました。いろいろ勉強して、
多くの人にも会いましたが自分が今まで経験した映像業界、広告業界とは随分
違う構造(商流)であることに気づきました。世の中的には、むしろ、こちら
の方が普通ではないかとも思いました。
マチコの進んだ道
ヒットするキャラクターには、きっかけと流れがあります。ウサビッチは
元々携帯用コンテンツだったのが、MTVで公開され、大きくブレイクしました
民放のアニメとは違う流れの大ヒットだったので、業界に衝撃を与えました。
でも、同じようなことは何度も起こりません。コミック、絵本が売れ、民放で
アニメが流れ、多くの会社を巻き込みながら、ビジネスにするのが本道だと思
います。マチコは、本道からも、ウサビッチからも離れ、非常に狭い道を歩も
うとしたのです。
縮小宣言
色々な人の話を聞きました。アニメ制作会社の社長、エージェンシー、グ
ッズズ会社、卸の会社、イベントの会場関係者など。とても勉強になりました
最初の1〜2年は、DVDもグッズもそこそこ健闘したのですが、売れなくなる
ると、だんだん人や会社が離れていきます。赤字を増やすことはできないので
制作本数を減らし、グッズも会社のスタッフで企画・制作して、専用のサイト
を作り、販売しました。新作がなかなか出ないので、SNSのネタに困り、最後
の方は、自分でマチコの衣装を作り、マチコのコスプレ写真を上げるようにし
ました。結局、矢折れ刀尽きて、マチコ事業を縮小する宣言をして、カナバン
を離れることにしました。
マチコの教訓
1.原作者と制作者が喧嘩をしてはならない。絶対うまくいかなくなる。
2.制作費を回収する計画(ロードマップ)を立てる。
3.そのために必要な資本(知識、お金、人、協力会社)を用意する。
上記は、当たり前のことです。しかし、クリエーターは、作品が良ければ、何
でも上手くいくと思い込む人が多いようです。前の会社では、私もそんな感じ
で、映画やドラマをプロデュースしていました。自分で会社(サイレントフィ
ルム)を経営していくようになって、戒めるようになりました。
マチコから得たもの
1.日本のアニメ会社の現状
2.日本のアニメ、キャラクターグッズのお金の流れ
3.裁縫が上手くなったこと。
(SNS用にマチコの衣装を2年間作り続けました。)
最後に
富岡さんは、「イナズマデリバリー」や銭天堂のアニメの初期のシリーズ
の監督などされています。頑固で思い込みの強いところは、私以上なのですが
それでも悪戦苦闘しながら、慣れない会社経営をやり、独自のCGアニメを作ろ
うという姿勢は、続けることの重要さを体現していると思います。
マチコにサリーを着せている私
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